1. 安くて不安な牛乳

近代酪農の問題点

安くて不安な牛乳

日本の食料自給率の低さが問題になっていますが、牛乳に関していうと、実は自給率 100パーセントの優等生なのです。とはいうものの、乳牛の餌のほとんどは輸入穀物飼料に頼っているのが現状です。輸入穀物については、ポストハーベスト農薬 ( 収穫後の農産物に、防かび・防腐・発芽防止などのため、農薬を散布すること )の残留も問題視されていますし、不安定な輸入価格が酪農経営に打撃を与えるという脆弱なコスト構造も問題ですが、なによりも 「 そもそも牛に穀物飼料を与えること 」 自体に問題があります。

栄養価の高い穀物飼料は、高脂肪の生乳をたくさん絞るために近代酪農では必要なものとされてきました。しかし、牛という動物はそもそも草食の動物です。そのため、胃袋の構造や反芻 ( はんすう )行動など、植物を栄養源として生きるための独特の構造・機能をもっています。その牛に、本来の餌ではない穀物を多量に与えるわけですから、消化器障害等の病気を発症しても不思議ではありません。 しかも、生産効率の向上のためには多くの牛を狭い牛舎に詰め込み、人工的な飼料を与え、人工的な授精・分娩を施すというまさに 「 牛乳製造マシーン 」 として牛を飼育する酪農が一般的に行われています。

配合飼料、栄養過多、運動不足、病気予防のための投薬、継続したストレス・・・などなど、牛にとってはいたって不健康な環境です。この牛からとれる牛乳が、本当に安心して飲める本来の牛乳なのでしょうか?

スーパーには、ときどき水よりも安い価格で並ぶ牛乳があります。 安いことは家計にとっては確かにいいことですが、その安さを維持するために生じた歪みと報いにも、目を向けるべきではないでしょうか。

牛の胃がもつ驚「胃」の消化吸収メカニズム

牛の胃がもつ驚「胃」の消化吸収メカニズム 牛の優れたところは、人間が消化吸収できない強固な細胞膜(セルロース等)を持つ草を食べ、人間の食料となる肉や牛乳を生み出せる「もう一つの生態 系」を自身の胃に備えている点にあります。この素晴らしいメカニズムを無視して穀物を与え続けることで、第4胃変位※1や第1胃(ルーメン)※2の酸性 化・消化障害などが多発し、予防・治療の投薬が必要になってしまうのです。

※1 反芻動物の第4胃内にガスが貯留することにより第4胃が左か右に移動し、消化障害あるいは閉塞の症状を示す疾病。四変[よんぺん]ともいう。
※2 牛の胃全体の80%を占め、100ℓもの容量がある。微生物が生息し草の繊維質をエネルギーとして利用可能な状態にまで発酵させる。第2胃を含めて反芻胃とも呼ばれる。
  • (1)
    一度飲み込まれて第1胃に入った草は、一定時間後に口へ戻り再度咀嚼(そしゃく)されます(反芻:はんすう)。この反芻を何度も繰り返すことで、食物繊維の塊である草が細かく砕かれて唾液とよく混ざり合い、微生物による分解・発酵を促進させます。
  • (2)
    セルロース・デンプン・ヘミセルロース等の炭水化物は、反芻胃(第1胃と第2胃)に「共生」するさまざまな微生物の代謝活動によって分解、発酵します。その結果、食物中のタンパク質からペプチドやアミノ酸、アンモニアが大量に生成され、これらはルーメン内に存在する細菌の菌体タンパク質として再合成されます。驚くべきことに、この菌体こそが、牛の直接のタンパク源なのです。
  • (3)
    第3胃は主に水分の吸収を行い、第4胃は人の胃と同様に胃酸やタンパク質分解酵素を分泌し、消化を行います。第1胃から続く代謝でさまざまな栄養素を分解・合成してきた微生物はこの第4胃でようやく死に、腸で吸収されます。まさに驚異の消化吸収システムですね。ここまで完成度の高い食性と消化吸収システムを大量搾乳・促成肥育のために壊してしまう酪農や畜産はそろそろ改めるべきでしょう。
キング・コーン

おススメ映画『キング・コーン』 amazon.co.jpで購入できます。

アメリカのとうもろこし生産・流通の実態(裏側)をドキュメンタリータッチで描いた本作品でも、狭い畜舎の中で穀物飼料(主にとうもろこし)だけを食べている牛たちの姿が映し出されています。
とうもろこしを食べて育った牛は放牧牛よりはるかに速いスピードで成長しますが、体は完全に肥満状態。監督であるアーロン・ウルフ氏は「牛 に穀物を与えるのは人間にキャンディばかり食べさせるようなもの」だといいます。 さらにとうもろこしのほとんどを占める澱粉質は消化がよすぎるため、そればかりを食べる牛の多くは胃酸過多となっています。ビデオには大量の胃酸によって 胃に穴があいてしまった牛が登場し、グロテスクですが"牛のお腹に窓を取り付けてその進行していく様子を観察する"というシーンもでてきます。本来、草を 分解して自らの血肉とし、人間に恩恵をもたらしてくれる牛の胃。穀物飼料は、牛の胃が持つ"奇跡のシステム"を完全に破壊してしまっているといえるのではないでしょうか。

穀物飼料による家畜の飼育が抱える多くの問題は、決してアメリカだけで起こっていることではありません。アメリカから輸入したとうもろこしを与える飼育が主流の日本でも全く同じことが起こっているのです。ただ、こうした穀物飼料の使用を完全に悪だと責めることが出来ないのも事実。少ない利益を商品化日数の短縮と生産増でカバーせざるを得ない一般的な飼育では、輸入穀物飼料による効率的な経営も仕方のないことだと考えられているのです。

このコラムを通して皆さんに考えていただきたいのは、牛の本来の姿です。酪農も肉牛飼育も、人間が消化・吸収することができず価値を見出すことのできない"草と葉っぱ"を、牛の力を借りて牛乳や牛肉といった人間が食料として摂取することのできる形に変える、素晴らしい"奇跡のシステム"です。私たちは、数十年にわたり無理を重ねてきた酪農と肉牛飼育を少しでも本来の形に戻すために、山地酪農や草地・林間放牧の提唱と実践を続けていきます。そして生産者と業界の人びとに少しでもこうした事実を知っていただくことが、そのための第一歩だと考えています。